Kuukan Design

文化の体系を共感の文脈へとめぐらせる。

空間デザインは、「場」と「時」と「人」の関係性を、いかに「環境」へと構築していくか、いかに「心象」へと構想していくか...の行為ではないかと考える。そこへの牽引は、実空間へのリアルなリンクによって結ばれる緩やかな関係性のなかで、時空と人間を一体化させ、心地よい経験価値へと惹きつけていく「磁場力」だ。その思考と発想の回路は、「文化の体系」を空間へと翻案し、知覚をフル稼働させ「共感の文脈」へと促す、デザインアーキテクトである。
空間デザインがつくり出していく場の心象、場の気配、場の感性を表象する趣きのある「佇まい」や「設え」さらに自然や時間の移ろいに共生してきた日本文化の美意識にこそ、グローバルな世界では関心が集まる。― “空環”とは空気の環。人の環。地球の環。

トヨタ博物館・本館

通産大臣賞審議官賞、dda優秀賞受賞

1989年に開館した際CARジャーナリスト小林彰太郎氏から「トヨタ博物館は世界的なレベルで見ても第1級の自動車ミュージアムだと言えます」(談)と記事掲載されたが、実際、25年余り経た現在でも世界中から来館者が訪れる。展示面積6千平米のこの大空間に100台を超える欧米車と日本車を体系化し、共感の文脈に構築したことは、私のミュージアムデザインの代表作かもしれない。次世代のモータリゼーションを見据え「20世紀は人間が車に恋した世紀」という文明論の意味と主題を象徴づける「知と感と美へのインスピーレーションの磁場」を発生させた。
アトリウム空間に象徴化されているトヨダAA型に込められた「創造限りなく」の理念のもと、この半世紀、車好きに夢と遊び心をかき立ててきたマインドを、車文化として明確に発信できる日本車ゾーンの存在価値の再認識への空間デザインが今後の課題である。

Experience Design / 参加を促す

文化空間へと回遊していく
人間行動をデザインする。

公共性を持ち、公共的に人々を受け入れる文化空間のデザインは、景観とともに「場の心象」を醸しだす地域特性と文化特性との交点に見える“図”を連結していくことによって、“地”となる風土環境への連続性が同時に意図されなければならない。

“図”と“地”を現在の観点で編集し、参加する主体と触発する情報と体験する空間が相互に影響しあいながら、ランドスケープからインナースペースへと人々の目的と関心で自由に行動できる回遊空間を展開していく。そこで“人”と環境と施設が“交感”し、イマジネーションを喚起させ、心に響く空間をつくり出していく。

岩宿博物館

マルチメディアグランプリ特別賞、通商産業大臣賞、dda賞受賞

自然風土や文化特性と共生しながら景観デザインとなる”大地に生えてる"ランドスケープ建築のコンセプトを、ミュージアム空間へと連ねる発掘考古学のコンテクストをひとつの”黒曜石の鏃”から語らせ、時空間のイマジネーションを覚醒する。展示空間、建築、ランドスケープまで一体化して依頼されたからこそ実践できた「脱ハコモノの文化空間」は、30年たっても変わらずに地域に愛され資料館から博物館に格上げされた、群馬県でも人気のスポット。

大磯郷土資料館

地域の景観特性と歴史民俗に根ざした森林丘陵地に環境共生する近代別荘建築(三井城山荘)の場の記憶と心象を彷彿とさせる開放感ある資料館の佇まいと設えが、回遊性をともなって参加を促す気のおけない場となっているが、成長するミュージアムとしてデザインし経年しても色あせず大磯ブランドに成熟したミュージアムとなったと自負する。
しかしながら学芸活動により集積された膨大な文化資料を存分に堪能できるようなリニューアル計画の推進に期待したい。

リビングデザインセンターOZONE

超高層建築の低層階をメゾネットな吹抜け空間で連携させることで、歩行と視界が交感する回遊空間を発生させ参加を触発する。これは基本の建築計画に対して低層部のOZON空間デザインとして提案したものだった。全体建築設計は、巨匠であった建築家丹下健三氏であったが「私の建築を理解してくれているデザインだ。」と言われ、メゾネットな内部空間が実現できたことは忘れられない記憶である。
生活空間情報の”編集”の場を目指したデザインセンターとなり、ダイナミックな空間の気配と佇まいのインナーパークを仕掛けた。

Emotional Design / 共感を誘う

意味を演示するドラマトゥルギーの
文脈をデザインする。

デザインから現出される空間には、モノを含む情報が一体化され「意味→象徴」という形をとる、それが常に三次元的起伏のリズムを体感させることで、はじめて共感を誘う。情報と空間の調和されたシチュエーションづくりである。

ひとつの空間で、ひとつのテーマを繰り広げ、映像、照明、造形、音響の一体化する「メディア装置」によって、人々を「場の気配」に包み込んでいくドラマトゥルギーを構想する。「モノ」と「コト」との関連を示す「文化」の体系が「共感」の文脈をもって、空間化し、知的なおもしろさやエモーショナルな精神的感動を実現させるのである。

国際科学技術博 歴史館

通商産業大臣賞、朝日新聞社賞、dda最優秀賞

自然を科学することで技術を磨き上げてきた日本の科学技術の歴史を「つくる技術・鉄と、育てる技術・稲」という主題に集約し、抱擁感のある体験空間と映像環境の融合によって日本文化の美意識を織りなす共感の文脈へと導くエモーションを演出する。
EXPO'85へ向け日本がグローバル化への変調の時勢にあって、日本のアイデンティティーに火をつけるつもりで挑んだ最も思い出深いデザインである。イギリス館とイタリア館のデザイナーから「日本の科学技術の歴史だけでなく、日本の美意識についても、素晴らしいデザインを見せてくれたね」と話され、日本の空間デザインが国際的に評価された時であった。

west53rd日本閣

ブランドの継承と新生、さらに企業の持続可能性を目指しながら街区の景観づくりに貢献していくための環境共生をポリシーとし、90年の歴史を見守る緑樹の保存は絶対とした。
内部空間は、ウエディング事業特性となる「出会いの共感」を共有する輝きや歓びの時空を創出した。業界をリードする事業主からは、当初、計画与件をあえて出されず、空間やデザインがブランディングへと発展できたことで、他には類を見ないクオリティーが実現できた。

和顔愛語ミュージアム デザインギャラリー1953

被災した環境のなかの子供たちに心の復興とも言える屈託のない笑顔を取り戻そうと、水谷孝次のソシアルデザインの真価を発揮し社会発信したグラフィックアートを、おしげもなく集積した空間装置は、曼荼羅のごとく演示され、いわば「ビジュアルメッセージの空間交響楽」のごとくギャラリーを飲み込んだ。

Inspire Design / 歓心を拓く

時空を辿り「知と感と趣」に浸る
経験価値をデザインする。

空間デザインは、「場」の設定という制約が与えられることが多い。その上に「モノ」を含めた情報の意味と主題を象徴し、具現化するといった多様な与件への解答を求められる。この多様な与件を紐解き、ある定理に基づいて空間表象へと導き「場の感性」を設えていくデザイン行為である。

空間に入った瞬間、その設えの意味あいを直感させるような「モノ」や造形、視覚に対しての訴求力によって、見る側の思考を活性させる。視野の範囲が文脈を連ねながら多様な情報を統合して、空間へと参加する人々の探求する知性、さらに歓心する感覚へとインスピレーションをかきたてる。

人間博物館リトルワールド・本館

通商産業大臣賞、ddaディスプレイデザイン賞受賞

民族の多様性はもちろん、その奥に共通する精神性や通文化性の体系をマトリクスに「世界の本質のある場に、あらゆるものが集まっていること」というマンダラの共生空間を現出した。文化人類学者たちがフィールドワークで体験したことと同質の知と感による発見や美の感動を空間構成したことはもとより、民族の造形に「現代の生活デザインの原風景」が顕在していることへのインスピレーションを感じるとともに、原初的なアート性に浸る空間デザインとした。

世界遺産ポスター展

通商産業大臣賞、dda優秀賞受賞

共生と平和への思いのもと「地球環境と文化遺産の継承」のメッセージを社会発信する意図をもたせ、世界遺産の意義を表象する日本グラフィックデザイナー協会のエキシビションだったが、場の条件は百貨店の催事場。
廃材の建築足場でインスターレーションした展示装置にアートポスター群を空間積層した実在的状況と、会場全体をブルーに染めた演出照明が、そこに仮想の遺跡空間を現出させた。これぞ、空間マジック。

アド・ミュージアム 東京

高密度都市環境に”象嵌された”アドミュージアム。「広告は時代の合わせ鏡」を語りのイマジネーションに、近世から現代に至るグラフィックアートの空間パノラマを広告と社会、広告と時代の関係史としてとらえる視点で、美意識の変容と都市化の時空を複合させデザインしたが、来館者がそれぞれのノスタルジーを語り合える場になっていることが「人の環(わ)」ができた嬉しい付加価値であった。

Profile

空間デザイナー
田中俊行|Toshiyuki Tanaka

Profile:
東京生まれ。
武蔵野美術大学デザイン科卒業。
(株)乃村工藝社アートディレクター職を経て退社。
1983年(株)空環計画研究所設立。

Design Works :
人間博物館リトルワールド・展示デザイン
EXPO'85政府出展歴史館・アートディレクター
江戸東京博物館・展示基本計画
群馬県岩宿博物館・建築、ランドスケープ及び展示空間デザイン
神奈川県大磯町郷土資料館
新宿パークタワーリビングデザインセンターOZONE・基本空間デザイン
トヨタ自動車博物館本館及び新館・展示空間デザイン
電通アドミュージア東京・展示デザイン
west53rd日本閣・建築及び空間デザイン
三菱1号館美術館竣工記念展・アートディレクター等

Award Prize:
朝日新聞社賞
通商産業大臣賞
日本の空間デザイン最優秀賞
マルチメディアグランプリ最優秀賞
商環境設計家協会デザイン大賞など受賞。


Public Official:
-2006年 武蔵野美術大学、東京芸術大学で非常勤講師。
現在 社)日本空間デザイン協会顧問
東京都江戸東京博物館常設展示部会専門委員
公社)映像文化製作者連盟最終審査委員
神奈川県大磯町まちづくり専門家委員
世田谷区産業活性化アドバイザー
登録資格 マイスター商業施設士

Toshiyuki Tanaka

Company Info

株式会社空環計画研究所

業務内容
公共のミュージアム施設及び企業の広報販促施設の空間デザインの企画・デザイン
商業サービス事業に付帯する空間デザインのアートディクション及びプランニング
上記施設の建築コンセプト、ランドスケープのプランニング
文化施設のリニューアルや再生計画への提案・リニューアルのマスタープラン及びアドバイザリー
空間や環境を演出する造形アート、映像デザイン、情報メディアの企画制作
空間デザイン分野の啓発、指導、コンサルティング、トークセミナー講師
コミュニケーション施設の空間・環境・活動に関わる評論、執筆

会社概要
住所 〒158-0086 東京都世田谷区尾山台1-6-1
TEL 03-5752-5620
FAX 03-5752-5621
Mail

URL http://www.kuu-kan.co.jp
設立 1983年・2月
資本金 28,000,000円

media/著書・掲載


− 左 −
スペースメディアデザイン/田中俊行の仕事 1991/スーパーイコン出版
e-space スペースメディアがつくる、いい空間/田中俊行 1997/六耀社
− 右上 −
JAPAN INTERIER DESIGN (掲載)人間博物館リトルワールド 1983 6月号/インテリア出版
6人のディスプレイディレクション(共著) 1986/六耀社
デザインの現場 1988年 06月号 1988/美術出版社
Museums & Amusement Parks (掲載)人間博物館リトルワールド/横浜開港資料館 1992/六耀社
Expositions & Exhibitions (掲載)国際科学技術博覧会・歴史観 1992/六耀社
− 右下 −
日経アーキテクチュア (掲載)笠懸野岩宿文化資料館 1992 12-21/日経BP社
現代建築集成/文化施設 (掲載)笠懸野岩宿文化資料館 1993/メイセイ出版
JAPAN INTERIOR VOL.3 (掲載)INAX-XSITE 1994/六耀社
デザインの理念と実践 (掲載)田中俊行・空間デザイナー 制作・日本デザインコミッティー 2005/六耀社